Diary

針のむしろの酔っ払い

今度のことで家族が集まって食事をすることになった。一堂に会するのは兄の結婚式以来である。祝ってくれるのはありがたいが、しかし時期が悪い。雑誌の発売直後なのである。あんな小説を読んだ後で、なんと気まずい会になることか、俺は今からいたたまれない気持ちである。読んでくれるな、と思うが無理だろう。両親は前にも書いたように性の「せ」の字が出てくるだけで機嫌が悪くなる。姉は大学でトーマス・マンを卒論にした堅いお人で、昔は小説を書いていた。唯一読まないでいてくれそうなのは兄である。この人はよろずいい加減だから期待がもてる。兄嫁や姉婿にもどうかひとつ堪忍してくださいという気持ちである。他人なら、或いは親戚でも少し血が薄ければ全然平気なのだが家族というとどうしても息苦しい。フィクションと言ってもやはりきまりが悪い。どうやって開き直ろう、いっそ最初っからべろんべろんに酔っぱらって行くのはどうかな、とか真剣に思う。


旅の支度

旅の準備は楽しい。名古屋までの指定を買った。当初車で行こうと思っていたけれど、連休がらみで混みそうな気がしたのだ。指定席を買うのは久しぶりで、なんだかカタギの人になったみたいな気がする、錯覚だ錯覚。
車だと荷物が気にならないんだけれど、電車の旅だとあれこれ考える。iBookは重いけれどリュックに入れて背負っていこう。なにせ蓄電6時間だ。新幹線のなかで広げるくらいは屁でもない。
明日は群馬に電話をしてアポイントをとる。こっちは平日で車だから日帰りでも泊まりでも気楽だ。
長い間暇で暇で、去年なんかスケジュール帳などいらないくらいだったのが、急にばたばたしてきた。ま、今だけでしょう。人に会えるテンションのうちに会っておきたいというのもある。
賞をとったら五島に行きたいとも確かに言ったけれど、それは締切後のお楽しみでもいいかも。


公示前夜

編集部の担当者に以前の作品を見てもらえますかとメールしたら、ぜひ送って下さいとのこと。落選ものが復活するとは思えないけれど、へたくそな自己紹介をするよりも、飲んで喋るよりも、どんなことを書きたい奴だか判るだろう。担当者といい関係を作りたいのは、営業をやっていた時と変わらない。
外出して帰り道に街宣車を裏通りのパーキングで見つける。公示前なので誰のか判らないように覆面してある。前に大田区は都知事選と都議補選のみと書いたのは大うそで、区議と区長選もある。区議選の看板のでかいこと。何十人もの候補から一票選び出すのなんておかしいような気がする。せいぜい15人くらいまででしょ、いくら選挙好きでも。


come on fox

取材とか言って人に会ってほんとに作品が書ききれるんだろうか。すごく不安だ。部屋でパソコンを睨みつけていてもなにもはかどらない。受賞の日に、飲み会で審査員の奥泉氏に「誰もが通る道だけど苦しいよ」と言われたのが、もう身にしみて感じられる。締切は6月末、あと2ヶ月だ。2ヶ月あれば大概のことはなんとかなるはずだ。狐よ、憑け!


紀尾井町マジック

夕方、文藝春秋へ。永田町で地下鉄を降りてなぜか迷って歩いているうちに四谷駅前に出てしまった。情けない話だが時間に間に合いそうになかったのでタクシーを拾った。
審査員と担当の人から指摘のあった部分の最終の直しと、受賞のことばを出す。写真は普段着で撮った。72枚も撮られた。魂抜かれた。
筆名の読みを、tokikoからakikoに変更、読みにくいというのでさっぱりと変えてしまいました。


動け動け

なんだかまだ落ち着かない。次の小説の取材で名古屋と群馬に行くことにした。場所がどうってわけじゃなくて、会って話したい人がいるので。選挙とか連休とかが間にはさまって面倒くさいけれどなんとかなるでしょう。暖かいとどんどん外に出る気になってくる。
花束、ありがとうございました。


缶詰め/再会

しばらく落ち着かなくて行けなかった学大に行く。店のマスターが「缶詰めになるならホテルじゃなくてここでどうぞ」と言ってくれた、嬉しかった。俺の殆どの小説はここでメモ帳に書き直し、思いつきしながら育ってきたのだ。次の小説もここで練る。いいものが書けるといいな。
夜、友達と会う。久しぶりだったけれどこのタイミングでひょいっと蒲田まで来てくれたのが嬉しかった。歓迎の餃子は蒲田レポートにアップした。本とCDを焼いたやつをもらった。ノラジョーンズがよかった。


スタート

文學界新人賞受賞。
みんなが喜んでくれて、それが嬉しくてぞくぞくした。こんなに人を喜ばせたことが、今までないような気がする。今までは、HPを見てくれる人、編集部の人、作家の人が自分の小説を読んでくれることが嬉しかったが、これからはもっと、全然知らない人と繋がっていく。突然広がった世界の前に立っている。道があるわけじゃないけれど、自分には体力があって、草を刈りながら、時に木を切りながらすすんでいく。


沖仲仕の哲学者

公家顔がエリック・ホッファー(社会哲学者)の本を2冊くれた。
「魂の錬金術」より「孤独な生活とは、一部の人にとって他者からの逃避でなく自己からの逃避である」など。コーヒーを飲みながらつぶつぶ読んでいる。


本末転倒

ぬか喜び最終戦、公家顔と京橋の天麩羅屋で飲んだ。公家顔が得意とする新宿に行くのは遠いので「京浜東北沿線」で店をみつくろってもらった。公家顔と会うのは2年ぶりだったが先月会ったばかりのように話した。銀座のルパンで二次会をやって、有楽町から帰ろうと思っていると新宿に行こうと言う。これじゃ本末転倒だが2軒も奢ってもらってなんだか帰る気もしないので地下鉄で新宿に移動、新宿で3時まで飲んだ。大体東京が広すぎるのだ、福岡だったら中洲から西通りに移動したってワンメータだし、そこから家に帰るタクシー代だって知れている。東京は不便だ。東京が悪い。
新宿から蒲田までタクシーに乗るのが恐ろしくて実家に帰った。実家から朝蒲田に帰るべきなのだろうけれど、ぐずぐずしていると、お年玉付き年賀葉書の抽選であたった蟹があるけれど夜食べるかと聞かれる。夕飯を食べて野球を見たら蒲田に帰る終バスがなくなってしまう。問題は薬を持ってきていないことだ。そんなら車で行ってついでにPCも持ってくればいいということになった。


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