Diary

第20回絲山賞

今年の絲山賞は、マーク・ヴァンホーナッカー著 岡本由香子訳『グッド・フライト、グッド・ナイト パイロットが誘(いざな)う最高の空旅』(ハヤカワノンフィクション文庫)です。2016年に出た本(文庫化は2018年)なので私は遅れてきた読者ですが、今年読むことができて本当によかったです。
著者は大型旅客機ボーイング747を操縦する現役のパイロット。この本には飛行機と空の旅、地形や自然、家族や人々との交流について、9つのテーマで書かれています。
小説でも詩でもなく、旅人の書いた紀行文でもない、ノンフィクションの枠にも収まらない。「エッセイ」ということになるのだと思いますが、とにかく文章が美しいのです。豊かで雄弁なのに、過剰なところがない、淡々としているのにあたたかい。翻訳者のセンスや腕前もすばらしいと思います。
世の中には豪華な食材を使ったコース料理のような本も、すいすい飲めて気持ちよく酔えるお酒のような本もありますが、この本は山の水のように爽やかに、体の隅々まで届き、満たされるような読後感です。そしていつまでも忘れられないのです。
読んでいると、とても静かな気持ちに包まれます。そして、その静けさがテキストから与えられたものではなく、自分の内側から訪れたものだと気づいたとき、大きな喜びとくつろぎを感じるのです。


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