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第16回絲山賞

絲山賞は、私が一年間に読んだ本のなかで一番面白かったものに対して個人的に敬意を表しているものです。「自分には書けないもの」を基準に、2004年から毎年12月に選んでいます。これまでの受賞作品につきましては当サイト「プロフィール」から「絲山賞について」をご参照ください。

第16回絲山賞は、
写真集『ニッポンのはたらく人たち』杉山雅彦 パイ・インターナショナル刊
にさしあげたいと思います。
 
人間が生み出した作品は、それぞれに異なる光を発していると思います(ありふれた考え方なので、以前から言われていることかもしれません)。本に関して言えば、古典のように長く、遠くまで届く光もあれば、エンタメのようにできごとをはっきりと照らす光もあります。小さくても気持ちの和らぐ本、鋭い光で何かを指し示す本、全体を照らして視界を広げてくれる本があります。そのときの場の明るさ(夜なのか昼なのか、屋内なのか屋外なのか、光源の数など)によって、作品の意味や重要性が変わってきます。私たちはその光によって世の中を認識し、自分の内側を見ています。本の感想が自己紹介になってしまいがちなのは、そういうわけかもしれません。
 
今年の絲山賞は、圧倒的に強い光を持った作品です。25台のストロボという物理的な意味でもそうですが、人々の表情も輝いています。誰にも似ていないし、誰にも真似できない作品です。あまりにも眩しく、非現実的に思えるほど力強く、エネルギーがあふれ出しているように感じます。
以下は、女性自身に書いたコラムからの引用です。
「職場は仕事をするところですから家庭や学校と比べて、ふるまいが限定されています。仕事や役割に応じた言葉遣いや表情はある程度決まっていて、それ以外の部分は出さずに過ごしているわけです。この写真集は(中略)「抑制」という封印を解き放ったところに最大の特徴があるのかもしれません」
「映っている人々にはそれぞれ名前があり、生活があり、好みや癖があり、過去があり、未来がある。百年前には一人も存在しなかったし、百年後も誰も生きていない。なんて尊いのだろう」
 
作品に描かれた世界や人は、本来なら見ることができない世界、会うはずのなかった人々です。架空でなくても、受け手にとっては架空に近い存在です。もちろん、この写真集に映っている方々は同時代の日本で活躍していらっしゃる方々なので、いつか会うこともあるかもしれません。でも、この本で表現された瞬間の仕事場に立ち会って体験することは不可能です。
会うはずのない人や、遠い昔、自分の世界から連続していない場所からの光を受けとめたとき、人は大きな励ましや希望、楽しみを得ることができると思うのです。それは未来へと繋がります。この本が多くの人を笑顔にしてくれますように!


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