Diary

第15回絲山賞

絲山賞は、私が一年間に読んだ本のなかで一番面白かったものに対して個人的に敬意を表しているものです。「自分には書けないもの」を基準に、2004年から毎年12月に選んでいます。これまでの受賞作品につきましては当サイト「プロフィール」から「絲山賞について」をご参照ください。
 
第15回絲山賞は、内田洋子著『モンテレッジォ 小さな村の旅する本屋の物語』(方丈社)です。
イタリア山間部の村に、かつて本の行商を生業とする人々がいた。かれらはヨーロッパの出版や文化に大きな影響を与えたーーこの本のテーマである「旅する本屋の物語」は、調べれば調べるほど面白い、とても重要で奥行きのあるエピソードです。
でも、それだけではない。この本には著者の内田洋子さんにしか書けなかったと思わせる唯一感があります。日本から取材班が出かけて行ったのではなく、現地メディアによる紹介でもなく、イタリアで暮らすジャーナリストである著者が、人から話を聞いてこれまで知らなかった村に出かけて行った。つまり旅の話です。本を愛する著者の視線とフットワークによって村の良さもゆかりの人々の魅力も、どんどんひらいていくように感じられます。
当たり前のことを申しますが、旅というものは人間にしかできません。物が動くのは物流です。私たちが日ごろ、本という商品を買うことができるのは物流のおかげですが、なんだか本は今でも旅の方が相性がいいような気もしています。
過去の出来事が未来を照らしているように感じたり、遠い外国の話なのに自分が知っている日本の歴史や山間部に住む人の顔を思い浮かべてしまうのは、筆力の確かさと語りの良さからくるのでしょう。
この本はまさに、内田洋子さんによって書かれることを待っていたのだと思います。その奇跡に心からお祝いを申し上げたいと思います。


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