Diary

第14回絲山賞

絲山賞は、私が一年間に読んだ本のなかで一番面白かったもの、自分には書けないものに対して個人的に敬意を表しているものです。2004年から毎年12月に選んでいます。詳しくは当サイト「プロフィール」から「絲山賞について」をご参照ください。
 
第14回絲山賞は、前野ウルド浩太郎著『バッタを倒しにアフリカへ』(光文社新書)にさしあげることにいたします。

毎日出版文化賞特別賞も受賞され、既にたくさんの分野から絶賛されている作品ですが、どうしても絲山賞を進呈したかったのは、新しいヒーローの誕生をこころからお祝いしたかったからです。(真面目に言ってます)
ポスドクという苦境にいる若き博士の旅立ち、誰もが知っているバッタという研究対象の深さとほとんどの人が知らないアフリカ・モーリタニアという舞台の広がり、情熱にあふれ才知に長けた仕事っぷり、すばらしき仲間たち、自分を売り出すという研究者のタブーへの挑戦、負の側面もいやみなく書き、再び砂漠でのクライマックスへと戻っていく。
ここには、何十年先に読み返しても面白い「普遍の要素」がいっぱい詰まっているのです。身に纏っているのは緑のバッタ装束だし、文章も面白すぎますが、間違いなくこのひとはヒーローです。夢を語り、夢を持って戦い続ける、その生き方がヒーローなのです。誰もが応援せざるを得ない気持ちになってくる。この時代だからこそ、こういう姿勢が希望となり、輝いて見えるのかもしれません。
 
科学の裾野は広くて豊かで楽しいところだと思うのです。そこでは学問を志す若い人も、新しい知識を喜びと感じる大人も、面白い本が好きだという人も自由にのびのびと遊ぶことができる。リチャード・P・ファインマン(ノーベル物理学賞/理論物理学)やコンラート・ローレンツ(ノーベル医学生理学賞/動物行動学)が書いたような名作が日本に、思いがけぬかたちで生まれたと申し上げても過言ではありません(少しだけ言い過ぎかもしれません)。ウルド先生の、ますますのご活躍をこころより期待しております。
 
 


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