Diary

第12回絲山賞

絲山賞は一年間で読んだ本のなかで一番面白かったもの、自分には書けないものに対して個人的に敬意を表しているものです。
絲山賞の詳細とこれまでの受賞につきましては、こちら
 
第12回絲山賞は、2作を選ばせていただきました。
『誰が風を見たか 増補版 ある精神科医の生涯』臺(うてな)弘 著 星和書店
『MOMENT OF TRUTH』 小川義文写真集 「TOKYO DAYS」製作委員会
の二作です。
 
『誰が風をみたか』は、2014年に100歳の生涯を閉じられた精神科医の自伝です。
大正期から平成までの自身の体験と考え方、長年患者のQOLを第一に重んじて研究と実践をすすめた医学のこと、時代と人間の関わりなどを、率直かつ冷静に振り返って書かれています。文章は簡潔で読みやすく、臺氏のあたたかみと独特のセンスを感じます。
小説や日記文学では表現できない「人間の生き方」をあらわした、ほかに類を見ない大切な記録だと私は受けとめました。
 
『MOMENT OF TRUTH』は、花の写真集です。自動車の写真を撮り続けて来られた小川義文さんが選ばれた新しいテーマが「5分で生けて、コンパクトカメラで撮る」ということでした。それぞれの写真に添えられた文章を読むと小川さんの「物の見かた」や「仕事に対しての姿勢」を知ることができます。
花というのは不思議なもので、物体としての花だけでなく、空間に強い影響を及ぼします。人の気持ちを包み込み、明るくやわらかくする力も持っています。私は、表現について、見えるものと見えないものについて、対象と空間の切り取り方について、この本から深く感じることがありました。2月にこの本を手にしてから、ずっとそれが頭にありました。その影響はあるいは既に『薄情』にも出てきているかもしれませんが、これからも多分作品のなかで出てくるものと思います。
もちろん難しいことを考えなくても、本当に美しい花の写真集ですので、クリスマスやお礼の気持ちとしてプレゼントしても喜ばれる一冊だと思っています。


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