Diary

第八回 絲山賞

絲山賞の説明とこれまでの受賞者一覧につきましては、トップ→プロフィール→絲山賞について、でご覧ください。

第八回 絲山賞は、松浦寿輝著『不可能』(講談社刊) となりました。

現実から隔たった場所で、感情をそぎ落とし、時間さえ存在しないかのように、そして我が儘にふるまっている平岡という名の老人に、私はなお生き続けることの厄介さを感じます。かれは、満ち足りることがありません。さらに「折り合い」ではなく、「攻勢」(「老人が攻勢に出る」松浦寿輝 講談社「本」7月号)を選んでいきます。

エピグラフが示唆し、作中のプロフィールで誰もが連想するあの作家にとらわれると「平岡」の罠にまんまとはまります。そこからやや外れた不安定な位置で読むと、松浦氏にしか書けない冴え渡った文章からぞっとするような冷たさ、美しさ、えげつなさ、奇怪さが迫ってきます。あまりとやかく言うと「間抜けな文学論をぶつ奴は撲殺されて当然だ」(本文p247より)と言われかねませんが、それでも私は、これは凄いと強く言いたい。そんな本です。


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