Diary

「そういう雑誌」のすること

週刊文春から、特別アンケート企画の依頼が来た。協力できない理由を伝え、編集部の承諾を得た上で、依頼のフォーマットの一部を転載します。

(以下引用)

 東日本大震災と巨大津波、そして原発をめぐるトラブル。日本人は今、おそらく戦後最大の難局に直面しているように思います。被災者はもちろんのこと、東京や西日本に暮らす人々の心にも深い傷が残り、また、今までないがしろにしてきた様々な問題と向き合うことを余儀なくされています。それでもなお、私たちは顔を上げ、前を向いて、未来へと進んでいかなければなりません。被災地の人々もそれぞれに懸命に悲しみを乗り越えながら、一歩一歩、前に進み始めているように感じます。

 

 スポーツ選手が、競技の前にヘッドホンで音楽を聴いている姿をよく見かけます。そうすることで「さあ、やるぞ」と心を奮い立たせているのでしょう。映画や本もしかりです。物語やそこで語られている言葉の力に背中を押されて前進することができた、そんなご経験を持つ方もいらっしゃるように思います。

 

  気分がふさいで元気が出ない時でも、この曲を聴くと前向きになれる。

 いつも手元にあるこの本のある一節を読んで、やる気を出している。

 映画やドラマのこのシーンを観るといつも胸が熱くなり、体が自然と動き出す。

 

 そのような「元気が出るとっておきの本、映画、音楽」があれば、いずれか1つで構いません。思い出話と共に小誌読者に是非とも御紹介いただきたく思っております。

(以上引用)

誰に元気になって欲しいんでしょう? 毎週悲惨なグラビアを見ていた人にさらに元気になって欲しいんでしょうか? 遺族はもちろんのこと、家族や親戚が被災地にいる人に元気になって欲しいんでしょうか? 大きな余震が続いて一旦回復したライフラインが寸断された人でしょうか? 避難先で地元の情報を探している方に元気になって欲しいんでしょうか? 過酷な現場で働いている自衛官や東電関係者、警察、消防関係の方の家族は元気になれるんでしょうか?

不特定多数が読むこと前提の雑誌のなかで、アンケートという「匿名の識者多数」からおすすめや、思い出話を押し付けられて、余計つらくなったり、疎外感を持つ人のことを考えなければいけないんじゃないのかい?

担当者は文芸にいた時代からとても親しくしていた、仕事の出来る好青年だが、「そういう雑誌なんです」と答えただけだった。「良識ってなんですか?」と聞いたけれど、答えてくれなかった。


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